本日0件のお問い合わせがありました。

✉️FIELDにお問い合わせ

設計・戦略マーケティング

日本酒・地方ブランド牛・アパレルに共通するブランドの育て方|研究と事例から導く8ステップのアクションプラン

日本酒、地方のブランド牛、アパレル。売っているものはまったく違いますが、「まだあまり知られていない商品を、選ばれるブランドに育てたい」という相談の中身は驚くほど似ています。

結論から書くと、この3つに共通するブランドの育て方は、次の一文に集約できます。

選ばれる理由をつくり、その理由を商品と体験で証明し、買う場面で思い出してもらえる状態を積み重ねること。

品質だけ、物語だけ、デザインだけ、広告だけでは完結しません。これらを同じ方向に揃えることがブランドづくりです。

ブランドの育て方の全体像。業種が違っても「理由をつくる → 証明する → 思い出される」の3段で積み重ねる
ブランドの育て方の全体像。業種が違っても「理由をつくる → 証明する → 思い出される」の3段で積み重ねる

この記事では、マーケティング研究とブランド論の代表的な知見、実在ブランドの事例をもとに、考え方・アクションプラン・How-to(具体的なやり方)・見るべき指標をセットで整理します。後半では、優れたブランドクリエイターの視点で補うべきことと、「少し格上の相手とのコラボレーションで段階的に価値を上げる」という戦略の成否の分かれ目まで扱います。

なお、研究は公開論文の要旨や研究機関の解説を、事例は各ブランドの公式情報を中心に確認したものです。実行手順・人数・期間は、研究を実務に落とし込んだ私たちの提案であり、効果を保証する数値ではありません。


そもそも「ブランド」とは何を管理することなのか

最初に、言葉の定義を揃えておきます。ブランディングを実務で扱うなら、次のように定義すると迷いが減ります。

ブランディングとは、商品や関連するもの・場面に触れたときに、意図した意味・感情・期待が想起されるよう、あらゆる接点の特性と制約に応じて、商品・表現・振る舞いを設計し、その受け取られ方を確かめながら、一貫して届け続けること。

この定義には、見落とされやすいポイントが3つあります。

  • 「ブランド」と「ブランドをつくる活動」は別物。 ブランドそのものは、活動の結果として消費者の頭の中に蓄積された記憶・意味・期待です。こちらが管理できるのは接点と提供内容までで、解釈そのものは管理できません。だから「実際に何が想起されたか」を確かめる工程が欠かせません。
  • 想起されるのは筋のある物語だけではない。 「安心できる」「自分らしい」「大切な人に渡せる」といった、一瞬の感情や判断も含みます。
  • 管理対象は表現物だけでなく、実態まで含む。 味、着心地、納期、接客、修理対応、欠品時の案内もすべてメッセージです。「丁寧につくるブランド」と発信しても、届いた商品や対応が雑なら、そちらの体験が記憶を上書きします。

そして、タッチポイントごとに同じことを同じ分量で伝える必要はありません。パッケージ、接客、SNS、売り場で表現は変えながら、同じ意味・感情にたどり着いてもらうのが設計の要点です。

接点ごとに表現は変えても、想起される意味・感情・期待は1つに揃える
接点ごとに表現は変えても、想起される意味・感情・期待は1つに揃える

無名の商品を有名にするときの「5つの壁」

「有名にしたい」という目標は、実際には5つの別々の課題に分解できます。自社がどこで詰まっているかによって、打ち手はまったく変わります。

課題やること
知られていない接触する人数と機会を増やす
接触しても覚えられない名前・見た目・特徴を記憶に残す
覚えられても欲しくならない魅力、用途、選ぶ理由を伝える
欲しくても購入につながらない信頼できる証拠と購入機会を用意する
一度の話題で終わる品質・体験・継続的な接触で記憶を定着させる

以下の8つのステップは、この5つの壁を順番に越えるための手順です。

無名の商品が止まる5つの壁と、対応するステップ(概念図)
無名の商品が止まる5つの壁と、対応するステップ(概念図)

ステップ1:「誰の、どんな場面で選ばれるか」を決める

考え方

マーケティングの基本であるSTP(市場を分け、狙う顧客を選び、その顧客にとっての位置づけを決める)に加えて、購買場面まで決めることが重要です。

オーストラリアのEhrenberg-Bass研究所は、購買を考え始める状況やきっかけをカテゴリー・エントリー・ポイント(CEP)と呼び、その場面でブランドが思い浮かぶことを重視しています。年齢や所得だけでは、商品ページも写真も営業トークも具体化できません。

商品属性だけの設定購買場面まで含めた設定例
日本酒40代・高所得者日本酒に詳しくなくても、会食で安心して選べる一本
ブランド牛おいしい肉が好きな人両親への贈り物で、感謝が伝わる肉を選びたい人
アパレル30代男性初対面の商談で、堅すぎず信頼感のある服を選びたい人
属性だけの設定から、購買場面まで含めた設定へ
属性だけの設定から、購買場面まで含めた設定へ

アクションプラン

優先する購買場面を3つ決める。

How-to

  1. 既存客・競合の購入者・購入を見送った人に、それぞれ5人程度ずつ話を聞く。
  2. 「どんな商品が欲しいか」ではなく、「最後に買ったとき、何がきっかけだったか」を聞く。
  3. 比較した商品、迷った理由、購入場所、決め手を記録する。
  4. 出てきた場面を「需要の大きさ」「自社の適合度」「利益」「届けやすさ」の4軸で採点する。
  5. 最優先の場面に合わせて、商品ページ・写真・営業説明を揃える。
購買場面の採点シート(記入例。数値は架空)
購買場面の採点シート(記入例。数値は架空)

成果物は、「誰が/いつ/何を実現したくて/何と比較して/なぜ自社を選ぶか」をまとめたA4一枚です。

見る指標

選んだ場面での購入率と、「その場面なら何のブランドを思い浮かべるか」という質問への回答。


ステップ2:「このブランドといえば何か」を一つに絞る

考え方

Kellerの1993年の代表的なブランド研究(顧客ベースのブランド・エクイティ)は、ブランドについての知識が消費者の反応にどう違いを生むかを扱っています。実務上は、名前を知ってもらうことに加えて、その名前から好ましい意味が浮かぶことが重要です。

ここで決めるのは「高品質」のような抽象語ではありません。どんな良さがあり、それが顧客のどんな満足につながり、なぜ自社が提供できるのか、です。

事例として、獺祭は「磨き二割三分」を旗艦商品に据え、米を磨く工程と、目指す甘み・繊細な味わいを結びつけて説明しています。製造上の特徴を、顧客が理解できる言葉に翻訳している例と読めます。

アクションプラン

中心となる約束を1つ、その証拠を3つ決める。

How-to

  1. 商品の特徴を20個程度書き出す。
  2. それぞれに「それが顧客にとって何の得になるか」を書き添える。
  3. 「顧客が重視する」「実際に提供できる」「競合と区別しやすい」の3条件で絞り込む。
  4. 「〇〇の場面で、△△を求める人に、□□を提供するブランド」の形で一文にする。
  5. その約束を最もよく体現する商品を「代表商品」に決める。
商品特徴顧客に伝える価値への変換例
日本酒香味の設計・製造方法料理と一緒に楽しめる、後味の心地よさ
ブランド牛飼育・熟成・部位選定贈った相手が家庭で調理しても満足しやすい
アパレル生地・型紙・縫製長時間着ても疲れにくく、姿が整う
特徴(つくり手の言葉)を、得(使い手の言葉)、約束(ブランドの言葉)へ翻訳する
特徴(つくり手の言葉)を、得(使い手の言葉)、約束(ブランドの言葉)へ翻訳する

見る指標

説明を見た人が、こちらの意図した価値を自分の言葉で言い直せる割合。


ステップ3:品質を「信じられる仕組み」にする

考え方

ErdemとSwaitのブランド・シグナリング研究は、買う前に品質を完全には判断できない市場で、ブランドが信頼できる情報(シグナル)として働くことを示しています。日本酒も牛肉も服も、買う前には分からない部分があります。だから必要なのは、宣伝の強さと同時に、期待どおりの商品を届け続ける仕組みです。

事例として、神戸ビーフは認定基準に加え、生産農家から販売先までの指定登録制度、店舗での証明表示、個体識別番号による履歴確認を整備しています。品質と真正性を、流通の末端まで含めて管理している例です。

アクションプラン

品質基準と、その確認方法を整備する。

How-to

  1. 顧客が不安に感じる点を5つ挙げる。
  2. 不安ごとに、提示できる証拠を対応させる。
  3. 出荷基準・検品方法・保管方法・不良時の対応を文書化する。
  4. 商品ページ、同梱物、販売員の説明で、同じ証拠を使う。
  5. ロットや取扱店ごとに問題を記録し、改善する。
顧客の不安示す証拠・仕組みの例
本当にその産地・素材か生産履歴、仕入記録、証明書
毎回品質が違わないか検品基準、品質記録
自分が使っても良さが出るか調理・提供・着用のガイド
不具合があったらどうなるか問い合わせ、交換、修理の手順
不安と証拠を1対1で対応させ、真正性を流通の末端まで管理する
不安と証拠を1対1で対応させ、真正性を流通の末端まで管理する

第三者評価を使う場合も、「有名な人に褒めてもらう」だけで終わらせず、何を、どの条件で評価したかを残しておきます。

見る指標

品質のばらつき、返品・苦情率、品質を理由にした再購入。


ステップ4:物語を「実際の行動」と結びつける

考え方

Morhartらの2015年の研究は、ブランドの真正性(オーセンティシティ)を継続性・信頼性・誠実性・象徴性の4つの側面で整理しています。歴史の長さだけでなく、約束を守ることや、顧客の価値観とのつながりも真正性を形づくります。

つまり、創業100年でなくても物語はつくれます。出発点は「どんな考えから、どんな選択を続けているか」です。

ブランドの真正性の4側面(Morhart et al. 2015)と、実務で使う問い
ブランドの真正性の4側面(Morhart et al. 2015)と、実務で使う問い

事例として、パタゴニアの「Worn Wear」は、手入れ・修理・DIYリペアなどを提供しています。理念を、購入後に実際に使えるサービスへ具体化した例と読めます。

アクションプラン

ブランドの考えを、3つの具体的な行動で示す。

How-to

  1. 経営者や作り手に「効率が悪くても続けていること」を聞く。
  2. 「なぜ始めたか」「何を変えたいか」「何を守るか」を整理する。
  3. その考えを証明する工程・制度・取引方針を選ぶ。
  4. 写真、記録、数字、当事者の言葉を集める。
  5. 30秒の説明、商品ページ、詳しい読み物の3段階に展開する。

「地域を大切にする」なら地域との取引や人材育成の実態を、「長く使ってほしい」なら修理や部品供給を用意する。言葉の裏付けとなる行動がなければ、物語は広告文に格下げされます。

物語(言葉)を、それを証明する行動に翻訳する
物語(言葉)を、それを証明する行動に翻訳する

見る指標

物語コンテンツの閲覧数に加え、その価値観が実際の購入理由として挙がるか。


ステップ5:見ただけで分かる「目印」を育てる

考え方

Ehrenberg-Bass研究所は、色・形・書体・音などの識別資産(ディスティンクティブ・アセット)を重視します。強い識別資産の条件は、そのブランドと結びついていること(独自性)と、広く認識されていること(知名度)の両方です。

事例として、リーバイスの赤いタブは1936年に導入されました。公式の歴史紹介では、他社製品と見分けにくいという問題を解決するために付けられ、その後広告でも繰り返し案内されたことが説明されています。

識別資産のグリッド。独自性と知名度の両方を高い状態へ育てる
識別資産のグリッド。独自性と知名度の両方を高い状態へ育てる

アクションプラン

繰り返し使う目印を2〜3個決める。

How-to

  1. 競合商品のパッケージや広告を並べ、似ている表現を洗い出す。
  2. 色の組み合わせ、形、文字の配置、模様などから、競合と被らない候補を選ぶ。
  3. 商品・箱・Web・SNS・店頭で共通して使う。
  4. 初期は必ずブランド名と一緒に提示し、結びつきを覚えてもらう。
  5. 定期的に名前を隠して見せ、「何のブランドだと思うか」を聞く。

日本酒ならラベルの配置、牛肉なら包材と認証表示、服ならタグや縫い目などが候補になります。

名前を隠して「どのブランドか」を聞くテスト
名前を隠して「どのブランドか」を聞くテスト

見る指標

「見たことがある」ではなく、正しいブランド名が出る割合と、競合との誤認率。


ステップ6:良さを「理解できる体験」を設計する

考え方

Brakusらの2009年の研究は、ブランド体験を感覚・感情・知的・行動の4側面で捉え、満足やロイヤルティとの関係を検討しています。実務への応用は、顧客が良さを実感できる条件を整えることです。

事例として、獺祭は「磨き その先へ」の公式説明で、先に「磨き二割三分」を味わってから飲むと、その魅力が分かりやすいと案内しています。商品だけでなく、体験する順序まで設計している例です。

アクションプラン

初回体験を1つ、標準化する。

How-to

  1. 初めての人にも伝わる違いを、1つに絞る。
  2. その違いが分かる試飲・試食・試着を設計する。
  3. 説明は「どこに注目すると分かるか」まで具体化する。
  4. 店舗や担当者が変わっても再現できる手順書にする。
  5. 体験直後に、商品名・購入方法・使い方を手渡す。
商品体験の設計例
日本酒温度や料理との組み合わせで、香味の変化を体験
ブランド牛部位ごとの食感と、推奨する焼き方を体験
アパレル試着時に歩く・座る・腕を上げる動作で着心地を確認
ブランド体験の4側面と、初回体験を標準化する5つの手順
ブランド体験の4側面と、初回体験を標準化する5つの手順

見る指標

体験後の購入率、理解された特徴、購入後の満足度。なお、体験に参加する人はもともと関心が高い可能性があるため、体験者と非体験者の差だけで効果を断定しないようにします。


ステップ7:価格・商品構成・売り場を揃える

考え方

4P(商品・価格・流通・販促)は、この4つを一体で設計する考え方です。またEhrenberg-Bass研究所は、思い出されること(メンタル・アベイラビリティ)に加えて、見つけやすく買いやすいこと(フィジカル・アベイラビリティ)を重視しています。

「高級感を出す」「販路を限定する」だけでは足りません。狙った顧客が、納得できる条件で買えるかを確認します。獺祭は高価格商品について、価格に見合う品質やスタイルが必要だと公式に説明しています。価格と商品の実質を結びつける考え方として参考になります。

アクションプラン

「入口・主力・象徴」の3つの役割で、商品を整理する。

必ず3種類に増やすという意味ではありません。今ある商品が、どの役割を担っているかを明確にします。

役割日本酒ブランド牛アパレル
初回の入口小容量少量の食べ比べ基本アイテム
売上の主力定番商品家庭用・贈答用の定番定番シルエット
ブランドの象徴技術を体現する商品生産思想を体現する選定商品素材・縫製を体現する商品
入口・主力・象徴。今ある商品に役割を割り当てる
入口・主力・象徴。今ある商品に役割を割り当てる

How-to

  1. 顧客が初回購入をためらう理由を確認する。
  2. 値下げ以外に、容量・数量・試着・説明で解消できないか検討する。
  3. 商品間の価格差を、顧客に分かる価値の差として説明できるようにする。
  4. 原価に加え、配送・販売手数料・返品・接客の負担まで計算する。
  5. ステップ1で決めた購買場面に合う販路から試す。
  6. 販売先には、商品説明・写真・保管/提供方法をセットで渡す。

見る指標

定価での販売率、販売経費まで差し引いた利益、取扱店での実売と再発注、欠品による機会損失。


ステップ8:認知を広げながら、再購入と紹介を育てる

考え方

MuñizとO’Guinnの2001年の論文は、地理的に限定されない、ブランド愛好者同士の社会的関係=ブランド・コミュニティを論じています。ファンとの関係づくりは強力です。

ただし、既存ファンとの関係づくりだけでは、まだ知らない人に届きません。新規の認知拡大と、購入後の関係づくりは別々に設計する必要があります。

アクションプラン

新規向けと既存向けの施策を、別の計画として持つ。

How-to

  1. 新規向けには、優先する購買場面ごとに広告・記事・店頭提案をつくる。
  2. どの表現でも、ブランド名と共通の目印(ステップ5)をはっきり出す。
  3. 購入後には、使い方・楽しみ方・手入れなどの役立つ情報を届ける。
  4. 次の購入が自然に発生する時期や場面に合わせて案内する。
  5. 愛好者には、作り手との対話、試作品の体験、交流の機会を用意する。
  6. 顧客が友人に紹介しやすい、短い説明文と購入先を整える。
商品購入後の関係づくりの例
日本酒料理との組み合わせ、季節の商品、蔵との交流
ブランド牛調理ガイド、贈答時期の案内、生産者との交流
アパレル着こなし、手入れ、修理、着用例の共有
新規の認知と購入後の関係は、別々のループとして設計する
新規の認知と購入後の関係は、別々のループとして設計する

見る指標

新規購入者数、初回から2回目への移行率、紹介経由の購入、顧客一人あたりの利益。服と食品では購入周期が違うので、同じ期間の再購入率で比較しないよう注意します。


優れたブランドクリエイターの視点で、さらに補うこと

ここまでの8ステップは、ブランドを堅実に育てるマーケティングの設計です。ただ、強いブランドを生み出してきたクリエイターの視点から見ると、まだ足りないものがあります。それは「人々の価値の見方をどう変えるか」「どんな美意識を貫くか」「何を捨てるか」です。

1. まだ言葉になっていない欲望を見つける

「どんな日本酒が欲しいですか」と聞くだけでは、既存商品の改善に寄りやすくなります。見るべきは発言と行動のズレです。

  • 高級品が欲しいと言いながら、露骨な高級感は避ける
  • 地方らしさに惹かれながら、土産物らしい見た目は嫌う
  • 品質にこだわると言いながら、本当は「選んだ自分の感性」を認めてほしい

How-to: 購入理由を聞くだけでなく、使う場所、贈る相手、比較したもの、買わなかった理由まで観察する。本人もうまく説明できていない欲望に、商品と表現で形を与えます。

2. 「何を良いとするか」という評価軸そのものを提案する

既存の評価軸の上で競争するのではなく、新しい価値の見方を提案する余地があります(以下は実在ブランドではなく、方向性の例です)。

商品既存の評価軸で競争する新しい価値の見方を提案する
日本酒希少性、精米歩合、受賞歴食卓で料理と人の会話を引き立てる酒
ブランド牛霜降り、等級、柔らかさ赤身を噛む時間そのものを楽しむ肉
アパレル流行、高級素材、見栄え修理や経年変化によって「自分の服」になる
既存の評価軸で競うか、新しい評価軸を提案するか(概念図・点は架空)
既存の評価軸で競うか、新しい評価軸を提案するか(概念図・点は架空)

ただし、言葉を変えるだけでは成立しません。肉なら飼育・部位・切り方・調理法まで、服なら素材・型紙・修理まで変える必要があります。コンセプトが商品開発を動かすところまで踏み込めるかが分かれ目です。

3. 「何をしないか」を決める

ブランドの輪郭は、選択によって生まれます。「時間をかけて楽しむ」を掲げながら毎週新商品で買い替えを煽れば、表現と事業が食い違います。

  • 売れそうでも、つくらない商品
  • 注目されても、使わない表現
  • 売上になっても、組まない相手
  • コストが上がっても、守る品質
  • 流行が変わっても、残す特徴

これは頑固さではなく、譲れない核と、顧客のために変える部分を区別する作業です。

譲れない核と、顧客のために変える部分。そして「やらないこと」のリスト
譲れない核と、顧客のために変える部分。そして「やらないこと」のリスト

4. 見た目ではなく「受け手の感覚」を揃える

色や形の統一は必要ですが、それだけでは美意識になりません。静けさを感じさせたいブランドなら、写真だけでなく、商品名、説明文の長さ、包材の手触り、接客の間合い、配送箱の開け方まで検討します。

How-to: 最初に「顧客に残したい感覚」を3語で定める(例:静か・精密・温かい)。商品・写真・文章・接客の実物を机に並べ、どこか一つでも過剰に派手なものがあれば理由を問い直します。

残したい感覚を3語で決め、全接点を並べて点検する
残したい感覚を3語で決め、全接点を並べて点検する

5. 顧客が意味を足せる「余白」を残す

ブランド側が物語をすべて説明すると、顧客は受け取るだけになります。一方で、贈った記憶、着込んだ跡、旅先で飲んだ経験が加わると、そのブランドは顧客自身のものになります。長く残る容器、修理できる服、毎年同じ時期に楽しめる商品は、その候補です。ただし、価格・品質・購入方法まで曖昧にする必要はありません。

クリエイティブな構想の出発点は、次の3つの問いです。

  1. 世の中のどんな「当たり前」に違和感があるか
  2. 代わりに、どんな豊かさや美しさを提案したいか
  3. それを、商品と事業で本当に実現できるか

この仮説をつくり、顧客の反応で検証し、8ステップの仕組みで育てる。構想と検証の往復まで含めてブランドづくりです。


応用編:少し格上の相手とのコラボで、段階的に価値を上げる

無名の商品を有名にする手段として、他業界の、自社より少し認知度の高いブランドとコラボレーションし、その実績を足がかりに次の相手へ進むという戦略があります。段階を踏んで格を上げていくやり方です。

「相手のイメージが自社に混ざるのは危険では?」という疑問もあると思いますが、結論は有効な方法です。ただし、相手の知名度が自社の価値に自動変換されるわけではありません。何の意味が移り、それが自社に残るかが成否を分けます。

コラボで得られる3つのもの

得られるもの消費者の中で起きること
認知へのアクセス「好きなブランドが紹介していたので知った」
意味の移転「この商品にも、あのブランドと共通する美意識がある」
信用の付与「あのブランドが一緒につくるなら、一定の実力があるのだろう」

SimoninとRuthの1998年の研究では、共同ブランドへの評価が、その後の各ブランドへの印象に波及することが確認されています。またその影響は両者に均等ではなく、ブランドへの馴染みの程度によって変わるとされています。

意味が混ざるのは「危険」ではなく「狙い」

記号論的に言えば、相手の記号に結びついた意味の一部を、自社の記号にも結びつけようとしているわけです。混ざること自体がコラボの目的です。問題はどの意味が移転するかです。

たとえば無名の日本酒が、少し有名な家具ブランドと組む場合(仮の例):

コラボの見せ方自社に残る意味
素材と職人技を共有し、食卓での体験まで共同設計「暮らしの質を大切にする酒」
家具ブランドのロゴを瓶に貼るだけ「あの家具ブランドのグッズ」
毎回、方向性の違う有名ブランドと組む「コラボは多いが、何のブランドか分からない」
コラボの見せ方によって、自社に残る意味が変わる(仮の例)
コラボの見せ方によって、自社に残る意味が変わる(仮の例)

他業界であることも、それだけで不利にはなりません。Parkらの1996年の研究では、単に好意的に評価されるブランド同士よりも、属性が補完的な組み合わせのほうが共同商品の属性評価が良くなる結果が示されています。業種の近さより、組み合わせる理由が重要です。

「追いついた」と見られるかは、関係の見え方しだい

同じコラボでも、消費者は次のように違って解釈します。

  • 「対等なつくり手として選ばれた」
  • 「素材の良さを認められ、採用された」
  • 「お金を払って名前を借りた」
  • 「有名なほうの付属品になった」

対等な共同制作であることや、相手が自社の能力を必要とした理由が伝わるほど、「同じ舞台に立った」という理解を得やすくなります。だから知名度を借りるだけでなく、自社は何を提供するのか(技術・素材・地域との関係・企画力・独自の顧客層)を明確にしておく必要があります。

アクションプラン:段階的に格を上げる5段階

以下は研究が直接実証した成長法則ではなく、研究を踏まえた戦略案です。

段階アクション自社に残すもの
1. 相手を選ぶ狙う顧客の中で自社より認知・信用があり、意味の相性がよい相手を選ぶ届けたい客層と、獲得したい意味
2. 共同で価値をつくる両者が必要な理由のある商品・体験をつくる自社の能力が分かる実物
3. 自社を覚えてもらう名前・目印・担当した役割を明示し、相手の媒体でも伝える自社名と強みの記憶
4. 単独の需要へ移す通常商品への導線と、購入後の接点を用意する指名検索、顧客、通常商品の売上
5. 次の提携へ進む実売・反応・制作実績を提示して次の相手に提案する次の相手が組む理由
段階的に格を上げる5段階と、各段階で自社に残すもの
段階的に格を上げる5段階と、各段階で自社に残すもの

How-to:失敗しないための注意点

  • 「少し上」をフォロワー数だけで判断しない。 見るべきは、狙う顧客の中での信用、移したい意味、実際に得られる露出、自社の貢献が見えるかどうかです。
  • 消費者からの評価と、次の提携先からの評価を分けて見る。 消費者全体にはまだ知られていなくても、良い共同制作の実績があれば次の提携先への営業は進めやすくなります。その連鎖から認知を広げる道もあります。
  • 最も重要な検証は「コラボ終了後」。 相手の名前を外しても、自社を思い出し、評価し、購入してもらえるか。コラボ商品の売上だけが伸び、毎回相手のファンだけで終わっているなら、自社ブランドへの蓄積をつくる工程(段階3・4)が足りていません。
相手の名前込みの評価と、相手を外した自社だけの評価(概念図)。下の線が上がり続けているかを見る
相手の名前込みの評価と、相手を外した自社だけの評価(概念図)。下の線が上がり続けているかを見る

最初の90日で何をするか

実行の順番は、たとえば次のように組めます。

期間優先する仕事完成させるもの主担当
1〜2週顧客・競合・購入場面の調査優先する購買場面3つ経営・営業
3〜4週約束・証拠・代表商品を決めるブランド方針A4一枚、品質基準経営・製造
5〜6週表現と商品構成を揃える写真、目印、商品ページ、価格説明制作・販売
7〜8週初回体験と販路を試す試飲・試食・試着の手順書、販売店資料営業・店舗
9〜10週購入後の案内を整備利用ガイド、再購入・紹介の導線顧客対応
11〜12週数値と顧客の反応を確認改善事項、次の投資先経営・各担当
最初の90日のスケジュール
最初の90日のスケジュール

90日で完成させるのは、ブランドそのものではありません。何を約束し、どう証明し、どう届けるかを、一貫して実行できる体制です。


詰まったときの診断表

打ち手に迷ったら、今の状態を次の5つに分けて見ると、優先順位がはっきりします。

状態優先する改善戻るステップ
知られていない接触する人数と購買場面を増やす1・8
知られているが選ぶ理由がない提供価値と証拠を明確にする2・3・4
欲しいが買いにくい販路、在庫、容量、購入導線を改善する7
一度買われても続かない品質、使用体験、期待とのズレを改善する3・6・8
売れるが利益が残らない価格、商品構成、販売コストを見直す7
詰まったときの診断フロー
詰まったときの診断フロー

まとめ

日本酒でも、地方のブランド牛でも、アパレルでも、育てたいのは顧客がこう思える状態です。

「あの場面なら、あのブランドを選ぼう。理由も説明できる」

そして、その期待に商品と流通が毎回応えられること。それが、長く積み上がるブランドの土台になります。

私たちFIELDは、こうした理論を机上で終わらせず、自社で運営する店舗でも検証を続けています。商品名の設計ひとつで来店の理由をつくった実践は、札幌オータムフェスにてマーケティング実践を行いましたで紹介しています。ブランドづくりや販路設計のご相談は、お気軽にお問い合わせください。


参考にした主な研究・資料

  • Keller, K. L. (1993). Conceptualizing, Measuring, and Managing Customer-Based Brand Equity. *Journal of Marketing*.
  • Erdem, T. & Swait, J. (1998). Brand Equity as a Signaling Phenomenon. *Journal of Consumer Psychology*.
  • Morhart, F., Malär, L., Guèvremont, A., Girardin, F. & Grohmann, B. (2015). Brand authenticity: An integrative framework and measurement scale. *Journal of Consumer Psychology*.
  • Brakus, J. J., Schmitt, B. H. & Zarantonello, L. (2009). Brand Experience: What Is It? How Is It Measured? Does It Affect Loyalty? *Journal of Marketing*.
  • Muñiz, A. M. & O’Guinn, T. C. (2001). Brand Community. *Journal of Consumer Research*.
  • Simonin, B. L. & Ruth, J. A. (1998). Is a Company Known by the Company It Keeps? Assessing the Spillover Effects of Brand Alliances on Consumer Brand Attitudes. *Journal of Marketing Research*.
  • Park, C. W., Jun, S. Y. & Shocker, A. D. (1996). Composite Branding Alliances: An Investigation of Extension and Feedback Effects. *Journal of Marketing Research*.
  • Ehrenberg-Bass Institute for Marketing Science:カテゴリー・エントリー・ポイント、識別資産、メンタル/フィジカル・アベイラビリティに関する解説
  • 事例:獺祭(旭酒造)、神戸ビーフ(神戸肉流通推進協議会)、Patagonia「Worn Wear」、Levi’s「Red Tab」の各公式情報

Yamamoto Yuya

プロフェッショナルとしての高いスキルと知識を持ち、誠実さと責任感を大切にする。常に向上心を持ち、新たな挑戦にも積極的に取り組む努力家。